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総合商社の眼、これから世界はこう動く

2017年05月16日

第166回 「ポテトチップス騒動から考える「見えざる壁」」

1.ポテチが消えた!
昨年の天候不順等による国産ジャガイモ不作により、これを原料とするポテトチップスの欠品が話題になっています。
こういう場合、他の野菜であれば、直ちに海外から原料や半製品・最終製品が輸入され不足分の穴埋めがなされます。しかしポテトチップスについては、輸入への依存度は相対的に低いようです。一方、同じジャガイモ製品であるフライドポテトは、冷凍食品という形で多くが海外から輸入されています。その背景を探りながら、農産物貿易について考えてみましょう。

2.ポテトチップスはかさばるので輸送コストが高い
まず最終製品としてのポテトチップスの輸入から考えてみましょう。
筆者が試算したところ、原料の生ジャガイモ1gあたりの価格、あるいは1kcalあたりの価格は、ポテトチップスと冷凍フライドポテトでほぼ同水準でした。
しかし注目すべきはその嵩(かさ)です。同じ重量のポテトチップスがフライドポテトよりも嵩が高いことは明らかで(コンビニで売られている標準的なポテトチップス1袋が約85g、大手ハンバーガーチェーンのフライドポテトSサイズが74gとほぼ同重量)、その分1gあたりの輸送費はポテトチップスの方が割高になります。実際、スーパーで輸入ポテトチップスを買うと140g(コンビニで売られているサイズは85g)で450円ほどで、その少なからぬ部分が輸送費とみられます。つまり、ポテトチップス最終製品の輸入が難しいのは、「かさばる割に値段が安い」からと言えます。

3.輸入半製品もあるがそれでも割高
「それならば冷凍フライドポテトと同じく、半加工済みで揚げるだけの半製品の形で輸入すればいい」という意見もあるでしょう。実はそのような商品は米国から既に輸入されています。インターネットで調べた業務用卸価格は1,500gで963円(税込み)でした。しかし、この1,500gがまるまるポテトチップスになるわけではなく、メーカーに確認したところ、1,500gを家庭で最終加工(揚げる)すると水分が飛んで675gまで減量し、国産ポテトチップスよりも若干割高になってしまいます。割高な上に揚げる手間暇がかかるとすると、いかに熱々を食べられるとしても気軽には買えないでしょう。

4.植物防疫法により生ジャガイモの輸入は厳しく規制されている
半製品の輸入が難しいなら、原料の生ジャガイモを輸入すればいいのでは、とも考えられます。ジャガイモ1トンあたりの生産者価格は日本産が964.9ドル(2015年国連食糧農業機関データ)に対し、米国産は日本までの輸入コストを含めても1トンあたり平均66,367円(2015年貿易統計より。2015年当時の為替レートでUS$548)と割安です。しかし、生ジャガイモ輸入は植物防疫法により厳しく規制されています。2015年の国内ジャガイモ収穫量が241万トンだったのに対し、同年の生鮮・冷蔵ジャガイモの輸入量は2.4万トンでした。
かかる状況下、国内ポテトチップスメーカーは、国内でジャガイモの契約栽培から始まる極めて精緻なサプライチェーンを数十年に亘って構築してきました。特に大手メーカーは、契約農家との長期取引にコミットする意味で、北海道などを中心に膨大な設備投資を行ってきました。長年に亘る関係者との信頼関係に加え、「新鮮さ」「輸送コストの安さ」という競争力まで考慮すると、国産原料による国内生産のメリットは非常に大きいのかも知れません。しかし精緻に作り込まれたシステムであるがゆえに、今回のような突発的現象にはうまく対応できなかったともいえるかもしれません。

5.ポテトチップス騒動の先にあるもの
今回の騒動の発端は異常気象による国産ジャガイモの不作でした。最近の異常気象をみていると、同じようなことが今後も繰り返される可能性は否定できません。
また、米国・トランプ大統領は自国の対日貿易赤字を問題視しており、対日食料輸出の加速を狙っているとも報じられています。実際、一部の海外メディアは、今回のポテトチップス騒動に絡めて、日本の植物防疫法を「非関税障壁」として批判しています。同様の流れの中で、最近米国は中国に米国産牛肉の輸入を認めさせました。
このように国内外情勢が変化する中、ジャガイモを含む農産物貿易にも大きな変化が生じる可能性があります。ジャガイモに関して一般に言われている変化の可能性としては、①企業レベルで米国等からのポテトチップス半製品輸入が拡大する、②生ジャガイモについて非関税障壁が緩和される、の2点です。①について、大手メーカーは「最終製品の品質が維持できない」として、輸入ポテトチップス半製品の利用は控えているようです。また②については、現在は「輸入ジャガイモを加工するには輸入港の近くに加工工場を有すること」などの厳しい規制が課されており、生ジャガイモの輸入は拡大しにくい構造になっています。しかし国産ジャガイモの調達が安定せず、且つ最終製品の値上げが難しい状況が続いた場合、①・②への対応がメーカーの業績を左右する時代がやってくるかもしれません。
かつてのBSE騒動では、米国産原料牛肉途絶への対応によって、牛丼チェーン内の序列が大きく変わりました。今回のポテトチップス騒動も、後になって振り返れば、業界変動の兆しであったと語られることになるかもしれません。

コラム執筆:榎本 裕洋/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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