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総合商社の眼、これから世界はこう動く

2017年11月07日

第180回 「再エネ事業は地元の資本参加で加速する ~「外部不経済の内部化」による問題解決~」

わが国で導入されている再エネの大半は太陽光だが、世界の再生可能エネルギー導入動向を見ると風力発電の方が太陽光発電よりも導入量が多い(図表1)のは不思議ではないだろうか。


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1. 地元との利害調整という高いハードルを解決する方策
わが国で陸上風力発電が普及しない理由には、電力系統の容量不足、建設に必要な道路アクセスがないこともあるが、騒音等の問題についての地元との協議が難しいことも大きい。再エネ発電施設の開発に必要な地元の関係者の同意を得るためには法令の基準を超えた希望に対処するケースもあるなど、交渉が長期に及ぶことや理解が得られないことも多い。この問題には、再エネ発電所を建設する地元に会社を設立し、発電を行いたい事業者と地元自治体・住民・金融機関が共同で出資等を行うことが解決策となる可能性がある。非地元の事業者は、発電のノウハウを提供しつつ、そうしたノウハウ出資を含めた投資を配当によって回収して利益を上げる。地元の関係者は資本参加して許認可手続きや地元利害関係者との調整等で一定の責任を果たしつつ、応分の利益も享受する。
筆者のレポートで何度か紹介している2016年の経済同友会の再エネ提言書(注1)でも、地元の自治体や企業・組合が出資するパブリックプライベートパートナーシップ(PPP)の活用等により、発電事業者と地元自治体および利害関係者が一体となってWin-Win関係となる開発プロジェクトを促進すべきで、その融資にも地元金融機関を活用するなど、地元経済の活性化にも資することが望ましい、と提案している。

2. 自分のための音なら気にならない
理髪点等で他の客の髪を乾かしているドライヤーの音はかなりの音量に聞こえるが、自分の髪を乾かしているときは耳元で使っていても全く気にならず、むしろ音が大きい方が頼もしく感じることもある。同じように、風車の音もよそ者企業が金儲けのために動かしていると「思う」と、迷惑に感じるのだ。
環境省環境研究総合推進費で実施された「風力発電等による低周波音の人への影響評価に関する研究」(注2)でも、ヒュン・ヒュンといった変動のあるスウィッシュ音だと小さな音でも気づきやすいうえ(注3)、不快感(アノイアンス)が高まることが示された。つまり、絶対的に「困る(健康被害が生じる等)」しきい値が決まっているわけではなく、迷惑に感じるかどうかは「気分」で決まるのだ。
したがって、風力発電の風切音、低周波振動、シャドーフリッカー(注4)等の問題も、「おらが町の発電所だ」という意識を持てれば、問題だと思わなくなる可能性が高い。小中学校では屋上等に設置された太陽光パネルの発電量を校内で電光掲示版(写真左)で表示しているのを見かけるが、今ではこうした発電量データを家庭内のパネル(写真右)やスマホで見ることができる。風車による発電量を近隣の「株主」の家の中で見られるようにすれば、風車の回転もむしろ頼もしく思えるようになるのではないだろうか。


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3. 地元との共同経営で問題を「内部化」すれば解決できる
環境省では、新電力(電力小売)分野でそうした仕組みを推進しようとしている。例えば、平成30年度予算要求中の「地域低炭素化推進事業体設置モデル事業」では、地方公共団体の積極的な参画・関与の下、地域新電力のような、地域の再エネの活用等により低炭素を推進する事業体を地域金融機関、地元企業、一般市民等の出資等によって設置する場合に、事業化に係る費用の一部を補助する予定である。既に自治体が出資する新電力が多数誕生していることは8月のコラム(注5)で報告のあったとおりだ。
経済学では、公害のような外部不経済の問題も「当事者たちが費用をかけずに交渉できる」なら効率的に解決可能だとしている(コースの定理。注6)。再エネ事業を地元関係者と共同経営すれば、本来なら交渉相手となる非地元・地元の関係者が「内部化」されて仲間となる。「仲間内で」費用をかけない交渉が可能となれば、問題が解決できることは、経済学の理論でも裏付けられているといえよう。

わが国の再エネが土地利用効率や設備利用率に劣る太陽光発電にばかり頼っていては、いくら太陽光発電のコストが下がったとしても、再エネの総電力供給量はやがて限界に達する。陸上風力発電特有といえる再エネの騒音問題を、地元の資本参加で解決し、わが国でも風力発電が大量に導入されるのは、当然の流れになるだろう。


(注1)2016年6月28日経済同友会 環境・資源エネルギー委員会『「ゼロ・エミッション社会を目指し、世界をリードするために」―再生可能エネルギーの普及・拡大に向けた方策―』
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2016/pdf/160628a.pdf

(注2)環境省環境研究総合推進費S2-11『風力発電等による低周波音の人への影響評価に関する研究〈H22~24年度〉』

(研究代表者:千葉工業大学橘秀樹教授)
https://www.env.go.jp/policy/kenkyu/suishin/kadai/syuryo_report/pdf/S2-11.pdf

(注3)そもそも風車の音は騒音というほどの大きな音ではないが、風力発電の適地は山奥の「静かな」エリアであることによって小さな音でも聞き取れてしまっている。加えて、「風況が良い=周囲にさえぎる物がない」ことから、少し離れた場所からでも風車の動きがよく見えてしまうことが、「気分」を悪化させてしまっている。

(注4)晴天時に、風力発電設備の運転に伴いブレードの影が回転して地上部に明暗の動きが生じる現象。住宅等がシャドーフリッカーの範囲に入っている場合、この影の明暗により住民が不快感を覚えることが懸念されている(出所:環境省資料)。

(注5)2017年8月15日マネックスラウンジ第173回『自治体が取り組む地域新電力の動向』
http://lounge.monex.co.jp/advance/marubeni/2017/08/15.html
(注6)「企業の生産活動から発生した公害が周辺住民に被害を与えている状況を考える。このとき取引コストがないなどの理想的条件の下では企業と住民の交渉によって外部不経済による過剰生産を避けることができ、少なくとも社会全体としては同じ水準の社会的余剰(メリット)が達成される。これをコースの定理という。」(出所:ウィキペディア)

コラム執筆:松原 弘行/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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