[ ここから本文です ]

特集2

2017年05月15日

第100回 「M&A」を読み解く 【市場のテーマを再訪する。アナリストが読み解くテーマの本質】

みなさん、こんにちは。『今どき株で儲けるヤツは、「業種別投資法」を使っている』著者の長谷部翔太郎です。先週、株式市場は一気に年初来高値を更新し、日経平均もおよそ1年半ぶりに2万円を回復目前となりました。それまでの有事懸念が当面回避されたとの見方が浸透したのに加え、フランス大統領選の結果がEUの枠組維持となったことが好感された模様です。これまで地政学リスクから一先ずポジションを抑制していた投資家がリスクオンに転じたことで市場の雰囲気はかなり変わった印象です。筆者はまだ内需の先行きには若干の懸念を拭えないでいますが、ひとまずは灰汁抜けという状況になったと受け止めています。

さて、今回はテーマとして改めて「M&A」を取り上げてみたいと思います。このテーマは過去に何度か採り上げていますが、いずれもM&Aというニュースを先回りして「待ち伏せ」するための視点をまとめたものでした。今回は打って変わって、実行されたM&Aがその後うまく行くかどうかを見極めるための視点を考えてみたいと思います。通常の株式市場ではM&Aが発表されると主導企業に対して期待感が高まるケースが一般的なのですが、(そうでなければ、そもそも市場から歓迎されないM&Aということになります)、そうやって好感を持って受け止められたM&Aも結果的に「失敗」と評価されてしまう実例は少なくありません。直近でも、東芝や日本郵便が買収後に巨額の損失計上を余儀なくされたことは記憶に新しいところです。M&Aは成功すれば企業の成長を強力に牽引する一方、失敗となると損失規模によっては企業の存続を脅かし、その後の企業戦略の選択肢をも大きく制約してしまうことに繋がりかねません(ここで言う失敗とは、損失の一括計上を一旦余儀なくされるケースを想定しています)。M&Aはそれが大規模なものになればなるほど、良い方にも悪い方にも非常に極端な結論を招きやすくなるものです。しかし、現実問題として買収後の経営が上手くいくかどうかを外から予見することは非常に困難です。上記の巨額損失の例も、まさにその典型と云えるでしょう。当然、株式市場でも大きなサプライズが発生することになるのです。

では、そのリスクを抑制するにはどういった点に注意しておくべきでしょうか。筆者は、大規模M&Aの成功確率を考えるうえで、次の3点に注目しています。第一には、買収価格が割高でないかどうか、です。割高な買収を行えば、それだけ損失の一括計上リスクが高まることは当たり前です。何を以て割高か否かを判断することは難しいですが、筆者はEBITDA倍率(簡易買収倍率)で10倍を大きく超えるような買収案件は要注意と考えてしまいます(もちろん、直近業績の水準に応じて調整を加える必要があります)。EBITDA倍率10倍というのは、買収元本を被買収企業のキャッシュフローで回収するのに10年かかるということです。事業環境の変化リスクを考えれば、資金回収期間は短い方が好ましいのは明らかでしょう。被買収企業の成長が急であれば少々割高でも結果的により短期間での回収も可能ですが、逆に成長が期待外れとなると回収期間はもっと長期化してしまいます。割高に買うということは、それだけ被買収企業に高い成長を求めることと同義であり、それは成功へのハードルを引き上げていると言い換えることができるのです。

第二には、M&Aの経験です。買収は異なる文化や価値観を持つ企業や人材を傘下に治めることに他ならず、経営や現場の運営には繊細な手綱さばきと柔軟な対応力が求められます。いきなりそれをこなすことのできる人材・企業も中にはあるかもしれませんが、多くは経験などによって少しずつノウハウが蓄積されるというのが現実でしょう。少なくとも理屈や見様見真似で対処できる問題でないことは明らかである以上、経験の豊富さが失敗リスクの抑制に繋がると考えます。第三には、経営者の腹の括り方です。これは筆者の経験則ですが、M&Aで成功する企業は強いリーダーシップを持ったオーナー企業が多い一方、合議制中心の「サラリーマン」経営者の会社では失敗例が多いと感じています。これは経営者の腹の括り方が違うからではないか、と考えます。極論すれば、M&Aは経営トップ一人の決断で決まるものです。そして、その経営者が自ら旗を振ってしっかりコミットできるかどうか、が成功への必要条件であるように思っています。

これら3つのポイントはあくまで目安でしかありませんが、いずれも外からでも確認することができるという点で重要です。EBITDA倍率は公表されている財務諸表から、M&Aの経験は各社のHPから、また経営者の腹の括り方は社長インタビューなどを見ることで、それぞれうかがい知ることができます。もちろん、この目安が絶対というわけでもなく、状況に合せて判断を下していく必要はあるでしょう。しかし、外部からM&Aの行方を見極めるうえで、重要な判断ポイントとして位置づけることができるのではないでしょうか。

コラム執筆:長谷部 翔太郎(証券アナリスト)

日系大手証券を経て、外資系投資銀行に勤務。証券アナリストとして、日経や米Institutional Investors誌などの各種サーベイで1位の評価を長年継続し、トップアナリストとして君臨する。外資系投資銀行で経営幹部に名前を連ねた後、現在は経営コンサルティング会社を経営する。著述業も手がけ、証券業界におけるアナリストのあり方に一石を投じる活動を展開中。著作は共著を中心に多数。

口座開設をお考えのお客さま

口座開設・資料請求(無料)

全てのお取引はこちらから

ログインはこちら

 マネックス証券からのご留意事項

「特集2」では、マネックス証券でお取扱している商品・サービス等について言及している部分があります。

マネックス証券でお取引いただく際は、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。お取引いただく各商品等には価格の変動等による損失が生じるおそれがあります。また、信用取引、先物・オプション取引、外国為替証拠金取引・取引所株価指数証拠金取引をご利用いただく場合は、所定の保証金・証拠金をあらかじめいただく場合がございます。これらの取引には差し入れた保証金・証拠金(当初元本)を上回る損失が生じるおそれがあります。
商品ごとに手数料等及びリスクは異なりますので、詳しくは「契約締結前交付書面」、「上場有価証券等書面」、「目論見書」、「目論見書補完書面」又は当社ウェブサイトの「リスク・手数料などの重要事項に関する説明」をよくお読みください。

↑画面上部へ